江戸っ子は宵越しの銭は持たない、という言葉がある。江戸っ子の気前のよさを自慢していう言葉だが、果たしてこれはほんとうに可能だろうか。

当然江戸っ子も昼間は働いてその日を暮らすための金を得ているはずである。その金をどこで使うか。江戸の内部で(つまり江戸っ子相手に)使うのであれば、片方の金はなくなるかもしれないが、その金は別な江戸っ子が所有することになる。売買にしろサービスにしろ、売り手は銭を受け取るわけだ。もちろん売り手がその後で別の売り手に金を渡すかもしれないが、しかし最後には売り手のもとに必ず1金が残ってしまう。

こうなるともうこの売り手は江戸っ子ではないだろう。このようにして毎日誰かが江戸っ子をやめていく2。これを繰り返していくうちに、江戸っ子は一人、また一人と消えていき、いずれは絶滅してしまうはずである。

これを江戸っ子のジレンマと名付け、これをテーマにこんなゲームを作成した。

ルールは単純で、プレイヤーと2人のCPUが初期資金を使っていくだけだ。お金を使う選択肢は金額に幅があり、ランダムで決まるので毎回同じにはならないようになっている。が、実際にゲームにしてみるとただのポチポチ運ゲーをするだけになっちゃってあまり面白くはなかった。そんな話。


  1. たとえば金を持つ江戸っ子が全員、埼玉の農村と取引して夜までに米に変える、ということをすると江戸の人間が全員金を使い切ることは可能ではある。 

  2. たとえば昼間しか営業していない魚屋の店長と、夜遅くまで営業している蕎麦屋の店長ではお金の使い切りレースでは後者が圧倒的に不利であろう。遅い時間に給与を受け取ってしまっても、使い先がなかったり使うのに十分な時間がないからだ。そのため、無限回の試行をしても非・江戸っ子になるのが毎回決まった職種の人になり、ある職種の人間は一生江戸っ子でいることが可能になるかもしれない。