ブログトップ画像
革命学舎
書く、これしか出来ないから。
WHEREtag=story

夜露のかたち

「きなこ〜、ご飯だよ〜」 時間は午後七時。もう既に日が暮れて暗くなった庭に向かって縁側から名前を呼んだが、ひっそりとした庭からは虫の音しか返ってこなかった。いつもならきなこが嬉しそうに寄ってくるのだが、今日は庭にはいないようだ。 ネコは気まぐれ、とよく言う。大方どこかで道草でも食っているのだろう。別...

砂浜の足跡

覚えることより、忘れることのほうが難しいらしい。でも私は、忘れようとしていないのに何も書けなかった。

石の冷たさを知る

暁の女神エオスがヒュメトス山の稜線を淡い薔薇色に染め始める頃、一羽の雄鶏が鋭い鬨の声をあげた。その声に私は浅い眠りから意識を引き戻される。寝室の小さな窓から差し込む光はまだ弱々しく、隣では妻が静かな寝息をたてていた。

真実の噓を彫る

私は嘘つきである。 この日記もまた嘘だ。 私がサグラダ・ファミリアの夜警を始めて三か月になった。昼間は観光客の靴音で賑やかな聖堂も、夜になれば石の沈黙だけが残る。静かな月の淡い明かりの中を、指定された時間に懐中電灯を持って歩く、そんな仕事だ。実のところ、この仕事は完全に私にあっていた。夜だと言うだけ...

脱却不可能

森の中で出会ったクマは、異質だった。朝、研究所への道を歩いていると、彼は木々の間から現れた。茶色い毛皮と小さな目が、まるで獲物を吟味するよう、あるいは何かを試すように、じっとこちらを見据えていた。――クマだ。だが、その瞳の奥に宿る光は、野生のそれとは明らかに異なっていた。人間よりも、いや、人間以上に...